買い物難民と酒類販売規制緩和の弊害を探る

2010年10月9日

目次

  1. 「買い物難民」とは
  2. 買い物難民の規模
  3. 酒類小売業免許に係る規制緩和とその影響
  4. まとめ

1.「買い物難民」とは

買い物難民」とは、郊外型の大型店や新しい業態のコンビニエンスストアなどとの競争で地場の小規模な個人商店の経営が成り立たなくなり廃業が進むことにより、遠くに買い物に行くことができない交通弱者[1]である高齢者などで日々の食料品や日用品の購入に困難を生じている人々のことを指している。

特に高齢化と過疎化が著しく公共交通機関の運行が乏しい山村において、買い物難民の問題は深刻であるが、都市部でもシャッター商店街化[2]の影響を受けて日常の買い物が不便になったと感じている高齢者は多い。

難民という表現には抵抗があるため、「買い物難民」とほぼ同様の定義で、「買い物弱者」という言葉も使われている。経済産業省の研究会が2010年(平成22年)5月にまとめた「地域生活インフラを支える流通のあり方研究会」報告書では、全国の「買い物弱者」の数を約600万人と推計している。なお、ここでの「買い物弱者」とは、流通機能の変化や交通網の弱体化とともに、食料品等の日常の買い物が困難な状況に置かれている人々と定義されている。また600万人という推計値は、内閣府が2005年(平成17年)に行った「高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査結果」(全国の60歳以上の男女3千人にアンケート)において、「住んでいる地域で不便に思ったり気になったりすること」(複数回答)として「日常の買い物」を選択した人の割合(16.6%)に60歳以上の高齢者数(3,717万人)を乗じて算出された推計値である。

ただし、このレポートで取り上げたいテーマはあくまで「買い物難民」であり、600万人と推計される「買い物弱者」と同義と捕らえるのはやや乱暴すぎる嫌いがある。「地域生活インフラを支える流通のあり方研究会報告書」に書かれている「買い物弱者」の定義は、このレポートでの「買い物難民」の捉え方にほぼ合致しているものの、600万人という推計値は単に60歳以上の高齢者数に日常の買い物が不便と感じている高齢者の割合を乗じて算定したものである。以前より山村での生活において買い物は不便であり、村に一軒の商店まで何キロも歩かなければならない村民は多かったはずである。また、スーパーまで数百メートルしか離れていない所に住んでいても、外出すら困難な高齢独居者は少なからずいよう。しかし、近年において山村の過疎化が進展し、買い物を支えてくれていた若い同居世代が村を離れ、高齢独居あるいは高齢者のみの世帯が増加したことで、日常の買い物に困難をきたしている人たちが増えている。また、近隣の商店が廃業したことで、遠方まで足を伸ばさないと買い物ができない人々が増えている。このように、近年における社会構造の変化の影響を受けて日常の買い物に新たな困難が生じてしまっている「買い物弱者」を、ここでは敢えて「買い物難民」と捉え直すこととしたい。

[1]交通弱者: ここでは自動車中心の社会変化において、運転免許や自家用車を持たない高齢者や子供、障害者や低所得者など、自動車を持つ人々に対して地域移動の制約を受けている人々を指して交通弱者と呼ぶ。公共交通機関しか利用できないため、自動車社会において社会的に弱い立場にあり、公共交通機関の衰退が進む地方や山村においては特に交通弱者の問題は深刻である。

[2]シャッター商店街: モータリゼーションの進展等に伴う大型店や郊外型店舗の台頭で、商店街では商店の閉店が進み、シャッターを下ろした空き店舗が目立つ衰退した商店街を指してシャッター商店街と呼ぶ。

2.買い物難民の規模

では、買い物難民はどれ程いるのだろうか。買い物弱者の数を、60歳以上の高齢者数3,717万人から算出した地域生活インフラを支える流通のあり方研究会報告書から少し見直してみたい。

 a. 推計案その1

まず、地域での買い物が少々不便でも、若い同居家族が支えていてくれたら日常生活に重大な支障は出ないであろうことから、高齢単身者あるいは高齢夫婦のみの世帯を買い物難民の算出の母数として推計し直してみる。

2005年(平成17年)国勢調査によると、65歳以上の高齢単身世帯は386万世帯(人)、夫が65歳以上で妻が60歳以上の高齢夫婦世帯は449万世帯となっている。この全数1,284万人に、先の住んでいる地域で日常の買い物が不便に思っている高齢者の割合16.6%を乗じると、買い物難民の規模は213万人と推計される。

 b. 推計案その2

一方、60歳代や70歳代になってもまだ元気で、出歩くことがあまり苦にならない人も多くいることから、65歳以上の高齢者を一律に買い物難民の潜在的な母数全体とみるのは抵抗がある。そこで、80歳以上の高齢単身世帯と高齢夫婦世帯のほか、障害者の単身世帯を買い物難民の潜在的な母数として推計し直してみる。

2005年国勢調査によると、80歳以上の高齢単身世帯は106万世帯(人)、夫妻ともに80歳以上の高齢夫婦世帯は28万世帯となっている。また、障害者白書によると全国の身体障害児者数は約366万人で、その約1割が単身生活をしているとみられていることから、その数は約37万世帯(人)と推定される(高齢単身世帯数との重複含む)。これらの数字を合算すると、潜在的な買い物難民の母数として、約170万世帯、合計で200万人といった数字が浮かび上がってくる。この数字に、先の調査で住んでいる地域で日常の買い物が不便に思っている「80歳以上の割合」である17.6%を乗じると、買い物難民の規模は35万人程度と推計される。

 c. 推計案その3

過疎化などで人口の50%以上が65歳以上の高齢者になり、集落の自治や生活環境、冠婚葬祭など社会的共同生活の維持が困難になった集落のことを指して、「限界集落」と呼ぶ。別案として、この限界集落に在住する人々を買い物難民として捉え、その数を推計してみる。

国土交通省が2006年(平成18年)度に行った「集落状況調査」によると、10年以内もしくはいずれ消滅の可能性のある集落は全国に2,620集落ある。その集落の世帯規模分布別の平均世帯数から推計すると、これらの集落に在住する世帯数は33,270世帯、1世帯あたり人口を2人前後と想定すると在住人口は6〜7万人程度と推計される。

 d. 推計案その4

地場の小規模小売店舗の経営を支えていたのは、主に酒類とたばこの販売による収益ではないかと推測している。特に酒類の販売に関しては、1998年(平成10年)から2003年(平成15年)にかけて酒類小売業免許に係る規制緩和が段階的に進められ、この5年間に酒販店の転廃業・倒産が2万4039件[3]に達している。少々乱暴な推計ではあるが、この転廃業・倒産した2万4千の酒販店を日常的に利用していたであろう世帯のうち、高齢単身世帯と高齢夫婦世帯の割合から買い物難民の数を推計してみる。

小売酒販店の平均的な近隣利用世帯数を400世帯と仮定し[4]、そのうち65歳以上の高齢単身・高齢夫婦世帯の割合である14.3%の世帯がそれまで日常的に利用していた小売酒販店の2万4千軒に及ぶ転廃業・倒産の影響を受けたとすると、その数は137万世帯の約212万人[5]と推定される。

[3] 全国小売酒販組合中央会調べの資料「転廃業・倒産及び失踪・行方不明者(PDF,880KB)」による。

[4] 平成13年度の国税庁「酒類小売業者の経営実態調査結果」によると、酒類販売の業態別で一般小売場数は70,967場、その年間小売数量はビールが3,721,398kl、清酒は756,072klとなっている。一方、国税庁「酒のしおり」によると、平成13年度の成人1人当たりの酒類販売(消費)数量はビールで46.1l、清酒は9.3lとなっている。したがって、一般小売店における総顧客数は約8千万人程度と見込まれ、1店舗あたりでは1,100人強、これを1世帯あたり平均人員2.71人(平成12年国勢調査より)で割ると約400世帯となる。

[5] 平成12年国勢調査における、65歳以上の高齢単身世帯数303万世帯、夫が65歳以上で妻が60歳以上の高齢夫婦世帯数366万世帯の割合より算定。


以上、買い物難民の定義が明確でない上に、その数を把握することは統計の制約もあり困難であるが、少なく見積もっても10万人から数十万人規模、定義の枠を広げると200万人規模の人々が買い物難民として、日常の買い物において昨今の社会構造の変化による弊害を受けていると想定される。

3.酒類小売業免許に係る規制緩和とその影響

小売店にとって酒類は、売価が高く収益率にも優れた商品の一つである。実際に、近所の”御用聞き”の酒屋を出発点に、様々に業態変化しながら地場に根付いてきた個人商店が大変多い。こうした商店は、長らく「酒類小売業免許制度」の既得権益に守られて、競合が発生しない地域のなかで小規模経営ながら固定客との付き合いだけで生きながらえてきた。

ところが、価格競争が働かないこうした免許制度による規制は消費者にとってマイナスであり、規制を緩和すべきとする社会構造変化の動きがバブル経済の崩壊とともに起こった。そして、1998年(平成10年)から2003年(平成15年)にかけて酒類小売業免許制度は緩和・廃止へと進んでいった。これにより、スーパーやコンビニ等でも酒類の販売が広がり、ドラッグストアーやホームセンターでは価格競争が起こり、特にビール業界ではより安価な発泡酒や第三のビールの普及を後押しし、消費者は価格面において大いに規制緩和の恩恵を受けることができた。

しかし、一方で酒類小売業免許制度の規制緩和は、近隣における新たな競合店の誕生と価格競争の勃発を招いたことで、従前の御用聞き的な地元の個人商店の存続を危うくすることにも繋がったはずである。その結果、もし地元商店の閉店や廃業が進んだとすると、規制緩和は一定の消費者に対して低価格化の恩恵をもたらしたと同時に、御用聞きに回ってもらうことで日常の買い物が可能となっていた交通弱者である高齢者などを買い物難民化させるという弊害ももたらしたことになる。

酒類小売業免許に係る規制緩和はどのように進められ、その結果、酒類の一般小売店ならびに関連する飲食料品小売店の数はどのように変化していったのか、以下で見てみよう。

 (1) 酒類小売業免許に係る従前の規制措置

酒類に関する免許制度は複雑であるが、従前の中小酒店が関係するのは「一般酒類小売業免許」制度 である。一般酒類小売業免許の基準枠は、人口基準と距離基準の二面から縛られていた。

《一般酒類小売業免許の需給調整要件》
a. 人口基準 (2003年(平成15年)9月1日廃止)
申請販売場が所在する小売販売地域に免許枠があり、その枠内でしか免許されない。

免許枠 = ( 人口 ÷ 基準人口 ) − 既存店数

表1 基準人口
地域改正前1998年度
(H10年度)
1999年度
(H11年度)
2000年度
(H12年度)
2001年度
(H13年度)
2002年度
(H14年度)
A地域(大都市地域)1,500人1,450人1,400人1,300人1,200人1,100人
B地域(中都市地域)1,000人950人900人850人800人750人
C地域(その他の地域)750人700人650人600人550人500人

[注] なお、2%条項(段階的な緩和を確実に実施する目的で、基準人口により計算した数値と既存店数に2%を乗じた数値(ただし最低1、上限5)のいずれか大きい数値を年度内免許枠とする)は、平成11免許年度をもって廃止し、平成12免許年度以降は、人口基準の適用だけで年度内免許枠を算定する。

b. 距離基準 (2001年(平成13年)1月1日廃止)
申請販売場と直近酒販店との距離が次の基準以上であること。
  • A地域: 100m (ただし人口30万人以上の都市で国税局長が指定する主要駅から500m以内にある商業地域については50m)
  • B地域: 100m
  • C地域: 150m

[注] なお、「大型店舗酒類小売業免許」という免許枠があり、店舗面積が1万u以上の大型小売店舗に対しては、一般の酒販店に対して適用される需給調整上の要件(免許枠及び距離基準)を適用しないで免許が付与される。

 (2) 酒類小売業免許に係る規制緩和の推進

1990年(平成2年)前後のバブル経済崩壊後、経済の長引く低迷に対して日本政府は、経済成長を図るために規制改革を推し進めていった。1995年(平成7年)に政府は、住宅・土地、情報・通信、流通、運輸など多岐の分野にわたる数千項目の規制緩和を盛り込んだ「規制緩和推進計画」(閣議決定)を発表した。その後も引き続き計画の改定が行われ、1998年(平成10年)には「規制緩和推進3か年計画」が、2001年(平成13年)には緩和から改革へと一歩踏み込んだ名称に変わった新たな「規制改革推進3か年計画」が発表された。そしてこれらの計画の推進により、日本の社会と経済における抜本的な構造改革を実現すること、国際社会に開かれ自己責任と市場原理に則った自由で公正な社会経済システムを創出すること、事前規制型の行政から事後チェック型の行政に転換していくこと、等が目標として示された。

酒税及び酒類販売の規制に係わる国税庁では、1998年(平成10年)度以降、規制緩和推進3か年計画に基づき、5年間で需給調整要件である人口基準(一定人口ごとに販売免許を付与)の段階的緩和が実施された。既存酒販店から一定の距離(50〜150m)には免許しないとした距離基準は2001年(平成13年)1月に廃止され、人口基準についても最終的に2003年(平成15年)9月に廃止された。

<参考>国税庁 懇談会資料「酒類小売業免許に係る規制緩和の状況等」

 (3) 規制緩和前後における酒類販売業の動向

東京商工リサーチの「酒類販売業の倒産動向調査」(2004年8月)によると、1994年(平成6年)4月から2004年(平成16年)3月までの10年間において、倒産件数は全産業でみれば減少が続いているが、酒やビール等の卸売や小売を行う酒類販売業では、やや増加傾向が見られるという。

酒類販売業の倒産件数は、この調査の10年間で、卸売業269件、小売業1,209件、総計1,478件発生している(図1参照)。特に倒産が多かった2000年(平成12年)度のピーク時には185件に達し、以降2年間は減少傾向にあったが、2003年(平成15年)度には161件と再び増加に転じている。

なお、倒産した企業の規模別でみると、年商別では1億円未満が63.7%。従業員数別では10人未満が91.8%となっており、他の業種の倒産動向に比べても小規模零細業者の倒産が目立って多くなっている。

図1 酒類販売業の倒産件数及び負債総額の推移

図1のグラフ

(資料)東京商工リサーチ「酒類販売業の倒産動向調査」より

また、国税庁が2002年(平成13年)度と2006年(平成18年)度に行った「酒類小売業者の経営実態調査結果」によると、酒類の業態別販売場数において、一般小売店(一般酒販店)の数は調査の5年間で70,967場から71,530場へと僅かに増えてはいるが、この間に全体の販売場数は約43%も増加しており、結果として一般小売店の割合は平成13年度には70%だったが18年度には50%にまで減少し、逆にコンビニエンスストアの割合は17%から25%に増大している(図2参照)

一方、業態別合計小売数量をみると、調査の5年間で全体では19%増加しているにもかかわらず、一般小売店の合計販売量は3,798,216klから2,282,407klへと40%も減少している。割合では、一般小売店の合計販売量は平成13年度の55%から18年度には28%まで減少し、スーパーマーケットやその他(量販店やホームセンター・ドラッグストアを含む)の割合が急拡大している。

酒類小売業の規制緩和を通じて、販売場数は大きく増加し、その増加率(調査の5年間で40%増)は総小売数量の増加率(同19%増)の約2倍に達している。一方で、競合の増加で売場あたりの小売数量は減少し(全体で-17%減)、特に一般小売店では-40%減と非常に大きく落ち込んでいる。

図2 酒類の業態別販売場数及び合計小売量の変化(平成13年→18年)

図2のグラフ(その1)

図2のグラフ(その2)

[注] 平成13年度調査と18年度調査では業態別の分類が異なる。平成13年度の「生活協同組合」と「農業協同組合」は、「スーパーマーケット」に含める。平成18年度の「量販店」「業務用」「ホームセンター・ドラックストア」は、「その他」に含める。なお、「百貨店等」と「その他」はいずれも「その他」とする。

(資料)国税庁「酒類小売業者の経営実態調査結果」より

2002年(平成13年)度から2006年(平成18年)度までの5年間で、全国の一般小売店(酒販店)の売場数は僅かに0.8%増加しているが、地域によってその変化にばらつきがみられる(図3参照)。大阪(30.6%増)、札幌(14.1%増)、熊本(6.2%増)、関東信越(5.7%増)の各国税局管内では比較的大きく増加している一方で、福岡(-14.8%減)、東京(-11.5%減)、金沢(-10.9%減)、高松(-10.7%減)などの管内では大きく減少している。

この間の新規免許の取得件数や返還件数が分からないため定かでないが、一般小売店からコンビニエンスストアへの移行が進んだ地域もあれば、大型店への集中化が進んだ地域もあるなど、地域ごとの実情が反映されているものと思われる。また、全体として一般小売店の売場数が増加していても、この間の倒産動向から窺うに、既存の一般小売店が安定的に存続したことによるものとは考え難く、閉店・廃業と新規出店の活発な入れ替わりが進んだ相対的な結果として捉えるべきであると考えられる。

以上から、中小の一般小売店(酒販店)では規制緩和の推進の影響を受けて、倒産のみならず閉店や廃業が進展していることが窺える。多くの消費者にとっては、規制緩和により販売競争が促され取扱店舗の増加と価格低下のメリットがもたらされた。しかし一方で、地場の小規模小売店舗では経営が成り立たなくなり閉店や廃業が進み、一部の消費者には近隣の商店が無くなることで日常の買い物が不便になるという弊害が生じたと推測される。

図3 国税局別の一般小売店販売場数の変化率(平成13年→18年)

図3のグラフ

[注] 国税庁の各国税局の管轄区域については、国税庁ホームページの国税局のページで確認のこと。

(資料)国税庁「酒類小売業者の経営実態調査結果」より

 (4) 飲食料品小売店の動向

次に、経済産業省の「商業統計」で、小売業全体とそのうちの飲食料品小売業について事業所数の推移をみると、いずれの事業所数も1991年(平成3年)以降は毎調査年次において一律に減少を続けている(図4参照)。年平均伸び率(減少率)をみると、両事業所数とも1999年(平成11年)まではその減少傾向に歯止めがかかりつつあったが、1999年以降は再び毎年の減少率が拡大し、特に2002年(平成14年)以降の飲食料品小売業における事業所数の減少率が著しく大きくなっている(年平均-3.5%の減)。

この間における国内家計最終消費支出(名目)の年平均伸び率をみると、1990年代はバブル経済の崩壊による消費の落ち込みが長引いたが、2000年以降は持ち直しの傾向がみられる。したがって、飲食料品小売業の2002年(平成14年)以降の事業所数の大幅な減少は、景気の影響というよりは、酒類小売業免許に係る規制緩和による影響を強く受けているのではないかと推測される。

図4 小売業全体ならびに飲食料品小売業の事業所数の推移

図4のグラフ

[注] 平成9年以前と11年以降の商業統計調査における業態分類が異なるため、飲食料品小売業の平成9年以前の値は一部に推計を含む。
なお、平成6年と11年は簡易調査。

(資料)経済産業省「商業統計」、内閣府「国民経済計算確報」より

4.まとめ

規制緩和は、過去の日本経済の成長過程において政策的に導入されてきた規制、つまり政府や自治体などが定めている許可や確認、検査、届け出といった市場における様々な制限を取り除いたり条件を緩めたりすることにより、企業など民間事業者の自由な活動を擁護し、日本経済の今後の更なる進展を図るために取り組まれてきた経済構造改革の一手段である。

規制緩和を推進することで、新たな企業の市場参入を促し、企業間競争によるサービスや品質の向上と価格の低下、雇用の拡大といった社会的・経済的メリットをもたらすことが期待される。

△ 規制緩和がもたらすと期待されるメリット
  1. 新規参入企業の拡大と、投資活動による経済活動の活性化
  2. 雇用機会の増大
  3. 企業間競争によるサービスの改善や品物の多様化、品質の向上
  4. 価格の低下や料金体系の弾力化による消費者コストの低減
  5. 行政コストの削減
  6. 企業活動の効率性向上
  7. etc

一方、規制緩和による影響として、マイナス面がもたらされる可能性もあることを認識しておく必要がある。

▼ 規制緩和がもたらす可能性のあるデメリット
  1. 新規参入による廃業や倒産件数の増大
  2. 企業間競争の激化による就業時間の増大、残業手当てのカット
  3. コスト削減による給与の低下、リストラの進展
  4. 終身雇用制度の崩壊、派遣や臨時雇用等による就業の不安定化
  5. 性急なコストカットによる安全性の低下、欠陥商品の発生
  6. etc

酒類小売業免許に係る規制緩和は、大規模資本や大型店舗の新規参入をもたらしたことで、価格競争に降参せざるを得なくなった地場の中小小売酒販店の閉店や廃業を誘発したことは明らかであろう。その結果として、一部の市民が買い物難民化の憂き目を負ったであろうことは、規制緩和のデメリットとして一般に想定されている以上の弊害である。

酒類小売業免許に係る規制緩和は、単に欧米諸国を模倣した政治・行政の考え方や進め方に警鐘を鳴らし、日本らしさ、つまり日本独特の商慣習や社会習慣、生活や文化のあり方の価値を見直すべきであることを示唆している。