新型インフルエンザの流行と拡大

2009年12月11日

目次

  1. 新型インフルエンザについて
  2. 我が国における新型インフルエンザ患者数の拡大状況
  3. 今後の流行拡大について

1.新型インフルエンザについて

国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)によると、2009年4月24日に米国とメキシコにおいてブタインフルエンザ(A/H1N1)ウイルスのヒト感染例の発生が報告された。その後、同ウイルスによる感染発病例が北米を中心に世界各国に拡がり、WHOは3日後の27日にインフルエンザパンデミックの警戒水準を6段階中のフェーズ4に、さらに3日後の29日にはフェーズ5に引き上げた。こうして今回流行のブタインフルエンザウイルスによる感染症は、ヒトのインフルエンザとして正式に「新型インフルエンザ」と位置づけられるに至った。

今回の新型インフルエンザの原因ウイルスは、1930年代以降に発見された米国由来のブタインフルエンザウイルス、ヒトインフルエンザウイルス(H3N2)、鳥インフルエンザウイルスの3つのウイルスの遺伝子がブタインフルエンザとして再集合してできたウイルスに、さらにユーラシア大陸由来のブタインフルエンザウイルスの遺伝子の一部の分節が再集合して加わったものであると推察され、この数カ月以内に新しく発生したものであろうと推定されている。

厚生労働省 「新型インフルエンザ対策関連情報」

感染症情報センター 「新型インフルエンザA(H1N1)の流行状況」

2.我が国における新型インフルエンザ患者数の動向

写真:産経ニュースより日本においては、米国とメキシコで発症例の報告があった3日後の4月27日にWHOが警戒レベルをフェーズ4に引き上げたことを受け、4月28日の午後より、成田空港等において主に北米や南米などからの国際到着便を対象に、全身を防護服に身を包んだ検疫官が多数乗り込んで、サーモグラフィーを使った体温チェックなどを行う機内検疫が開始された。それはまさに、映画「カサンドラクロス」のワンシーンさながらであった。到着便が重なる時間帯には、検疫体制が間に合わず到着後入国審査を済ますまでに3時間以上も待たされる事態も生じた。

機内検疫が開始された3日後の5月1日未明には、舛添厚生労働相が緊急会見を行い、横浜市に住むカナダ研修旅行帰りの男子高校生が国内初の「感染疑い例」であると認められたことを明らかにしたが、その後の検査で新型インフルエンザではないことが分かった。

そして、いよいよ米国とメキシコで発症報告があってから15日後の5月9日朝、カナダから米デトロイトを経由して成田空港に8日午後に到着した航空便の乗客3人(40代の男性教師と男子高校生2人)について、国内で初めて新型インフルエンザの感染者であることが確認された。同航空機で3人の近くに座っていた乗客47人と乗員2人については、感染の可能性から、検疫法に基づき近くの宿泊施設で10日間の停留措置が取られた。

この時点では、国外での感染者を水際で食い止めることができたと関係者は安堵していたが、実はそのころ神戸市では、まったく海外渡航歴のない男子高校生が11日に悪寒を訴え翌12日には開業医の診断を受けていた。当時、新型インフルエンザの疑いのある場合は指定病院の発熱外来を受診するように呼びかけられていたため、この男子高校生の検体はしばらく放置され、国内で初の新型インフルエンザの感染と認められたのは15日の深夜になってであった。16日の午後には、同じ高校に通う2人も簡易検査でA型陽性の反応があったことが判明した。翌17日には、兵庫県内の他校の高校生や大阪府でも感染者が見つかり、感染者数は合計17人となった。20日には東京都でも感染者が見つかり、感染は全国へと急速に広がりをみせた。そして5月21日までには、国内で初の感染者が確認されてからたった一週間で、全国で276人もの感染者が報告されるに至った。

結局、国際空港など水際での感染阻止は徒労に終わり、後に「マスクと防護服を身につけた検疫官が空港で飛びまわっている姿は、十分な議論や情報収集がされないまま検疫に偏重した政府のパフォーマンス」と揶揄されることとなった。

新型インフルエンザ患者数(2009年IDWR週報より)
週報(月日)累計患者数定点医療機関当たり報告数全国の医療機関を1週間に受診した患者数(推計)
第20週(〜5月12日)4人--
第21週(〜5月21日)276人--
第22週(〜5月26日)352人--
第23週(〜6月 3日)386人--
第24週(〜6月10日)483人--
第25週(〜6月17日)665人--
第26週(〜6月24日)944人--
第27週(〜7月 1日)1,351人--
第28週(〜7月 8日)2,018人--
第29週(〜7月15日)3,149人--
第30週(〜7月24日)5,022人0.281万人
第35週(〜8月30日)585,000人2.5214万人
第40週(〜10月4日)1,705,000人6.4033万人
第45週(〜11月8日)7,385,000人33.28153万人
※ 7月24日午前6時の時点で5,022例(検疫対象者36例を含む)の確定例を最後に、全数の報告は終了。

8月15日には、沖縄県で国内で初めて新型インフルエンザによる死者が出た。死亡したのは50代の男性で、心臓と腎臓に疾患があった。9月9日には、基礎疾患を有しない40歳男性が、新型インフルエンザにより死亡したことが確認された。そして12月5日には、全国で100例目の死亡が報告されるに至った。

10月19日からは、新型インフルエンザワクチンの接種が、医療従事者、喘息などの基礎疾患のある患者や妊婦、乳幼児などから優先順位に応じて順次開始された。しかし、新型インフルエンザの流行は一向におさまりをみせず、11月15日時点で累計患者数は738万人(国民の13〜14人に1人程度が感染)と推定されている。

世界の動向としては、6月11日にWHOは、新型インフルエンザの警戒レベルを世界的大流行(パンデミック)を意味する最高度のフェーズ6に上げた。これは香港風邪の流行以来、41年ぶりのことである。WHOでは、今回の新型を「2009インフルエンザ」と名付けた。11月22日現在、WHOによると世界で207以上の国や地域から、7,820症例以上の死亡例を含むパンデミックインフルエンザ(H1N1)2009の感染症例が報告されている。ただし、各国が軽症例についての全例報告を中止しているため、実際に起こっている感染症例数はこれよりはるかに多いと推定される。

3.今後の流行拡大について

我が国におけるこれまでの新型インフルエンザの流行状況としては、国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)のIDWR(感染症発生動向調査 週報)によると、2009年第45週(11月15日)までの全国の新型インフルエンザによる累計患者数は約738万人と推計される。

次のグラフは、我が国において発症例報告があってから各報告週における累計患者数をグラフにしたものであるが、2次曲線を描きながら患者数は急速に増えつつある。もしこのままの拡大を続けたとすると、12月中頃には累計患者数は2,000万人(国民の4人に1人が感染)にも達しそうな勢いである。

グラフ:新型インフルエンザ累計患者数の推移とその近似曲線

しかしながら、感染症の流行はいつかは終息に向かうことになるはずである。感染者数の拡大の後には、一度感染して完治した人の数も増えることから、相対的に感染の可能性のある人の数が減少する。また、予防の徹底や、そもそも感染者との接触機会が少ない人もいることから、国民全員が感染するとは考え難いため、今後いずれかの段階で感染拡大はピークを迎えることになろう。

新型インフルエンザの患者数を年齢階級別に見てみると、若年齢層の割合が人口割合に比して非常に高くなっている。一方、60歳以上の高齢者では、人口割合に比べて新型インフルエンザの感染者数は極端に少ない。若年齢層での新型インフルエンザの感染拡大はそろそろピークアウトを迎えると想定されるが、今後はウィルスの変異等により高齢者層での感染拡大がどれだけ進むのかが懸念されるところである。

グラフ:年齢階級別の新型インフルエンザ患者数の割合と人口の割合の比較

※ 新型インフルエンザ患者数割合は2009年第28〜36週の累積報告数より、人口割合は総務省人口推計による。